人猫族の娘(第百五十七話)

「う~ん……」ようやく目覚めるミオン。
「ようやっと目覚めたか……」目を開けた、ミオンの視野にポルカの使い魔の姿が映る。
「ニャ!」本能に従い、無意識に使い魔を捕まえるミオン。
「汝……いい加減にせぬか」ミオンの手からするりと抜け出して使い魔が怒鳴る。
「ごめんごめん……ゴホッ」咳き込むミオン。
「どうぞ、これを」水の入った器を差し出すアザミ。それを受け取り、一息で飲み干して息を吐くミオン。
「それで、ここは?」
「帝国から差し向けられた馬車の中」ポルカが短く答える。
「帝国の馬車?」顔をしかめ額を抑えるミオン。
「どういう状況なのか、詳しく教えて頂戴……」ミオンの言葉にムーア隊長が事務的に答える。
「我が国の宰相閣下が、帝国に我らの援護を要請したのだ。その結果、我らを襲った獣人同盟の追っ手は帝国軍によって排除され、我らは帝国の保護下にある」
「獣人同盟の追っ手は全て排除されたの」
「いや、我の見立てでは二人ほど逃れた者がいる」使い魔が答える。
「むう……それはまだ油断出来ないわね」ミオンの言葉にムーア隊長達が頷く。
「それにしても、帝国の介入か……」考え込むミオン。やがて首を振ってやけくそのように言う。
「ああ、もう!皆が無事ならそれで良いよ。後は皇帝の意向次第だ。考えるのは止め」
 それからすこしためらいがちに続ける。
「……それで帝国軍との仲介役で変な人猫族の男が現れなかった?」
「ああ、あの男か……お前の知り人なのか?」ムーア隊長が興味深そうに言う。
「ええっ……どうしてそう思うの?」
「いや、お前の病状をとても心配していたからな。彼は同族のよしみで気に掛けていると言っていたが」
「そう……ちょっとは耳にした事があるかもね。人猫族は人口の多さから言えば人犬族と大差無いんだけどね、人猫族の王国に留まる者が少ないんだ。独立独歩の気風というか、みんな大陸全土に散らばってしまう……だから王国に留まる傾向の強い人犬族とは自然と国力に差が出来てしまう。その国力の差を帝国に追従することで補っている」ミオンが悲しそうに言った。
「その男もその流れに従って帝国と君らの仲介役をやっているんだろうね、でそいつは今どこに?」
「御者台で馬を操っておる。汝の事を心配して居たのだ。顔を見せてやったらどうだ」
 一瞬、迷いを見せるミオン。それから意を決して、御者台の方にある窓に向かう。
「ゴホン、貴方が私達の世話をしてくれた人なの」ミオンに声を掛けられて振り向く御者台の男。悲しみや喜びの混じった複雑な表情をする。
「初めまして、私はミオン。気に掛けてくれてありがとう……」初めましての所を強調するように男に挨拶するミオン。
「あっ……ど、どうも初めまして……帝国軍と帝国市民の仲介をやっている者です、すいません名乗るほどの者じゃないので……」そう言って軽く頭を下げる、その両目から何故かボロボロと涙がこぼれている。
「汝はなぜ、泣いている?」使い魔が訝しげに聞く。
「あ、いや……この辺りの街道は埃っぽくって目にゴミが入ったんですよ」目をゴシゴシこする男。その答えに何故か渋面になるミオン。
「とにかく私は大丈夫だからね。余計な詮索や心配はしないで頂戴」
「おい、初対面の人にさすがにそれは失礼だろう」ムーア隊長がミオンの態度を咎める。「いえ、私が悪いんです、この方の心配など、余計なお節介でした」
 人猫族の男が明るく答え、前を向く。ミオンが微かに頷く。
「……ああ、からだがバキバキよ……誰がマッサージして頂戴」ミオンが首をもみながら悪びれた様子もなく言う。
「では私が……」アザミがミオンの肩をもむ。気持ちよさそうにするミオン。
「アザミは上手ね……では腰と足もお願い」馬車のシートに寝そべるミオン。
 
 人猫族の娘(第百五十八話)に続く。 過去作品はトップページ