旅するポルカ(第百三十九話)

「抜け道ですって…」使い魔の言葉を聞き返して、ポルカが座り直す。少し残念そうな顔をするハンザ。
「ああ、帝都中心部から、郊外へ秘密裏に移動出来る抜け道である。我が検分したかぎりあの結界は地上部だけが有効である。地下の抜け道を使えば回避できる…」
「どこに地下の抜け道があるか知って居るの?」
「複数の抜け道があると聞いたことがあるが、我が知って居るのは郊外から魔道士大学校の地下に通じる抜け道だけだ…」
「それは僕も、学生時代に聞いたことがありました。てっきり都市伝説的な与太話だと…」
「なるほど、抜け道に関する情報はかなり強く隠蔽したが、噂だけは根強く残ったか…」 使い魔が感慨深そうに言う。
「抜け道は実在する。それも当時の学生が学校側に内緒でこしらえたのだ」
「学生が?…良くそんなことが出来ましたね」
「ちょうど、その頃『魔導士の隧道』が着工され、大学校の学生も魔力補填に動員されたりしていたからな。それに刺激されたのかも知れぬ。地面に穴を掘る術式をそこで手に入れたのかもな…」
「大学校当局は気付かなかったのですか…」
「無論、気付いていた。しかしおおらかな時代であった、見て見ぬふりをして学生達がどれほどやれるか密かに見守っていたのだ」
「それで学生達は抜け道を完成させたと…」
「ああ、見事にな…しかし、その使い道が…まあ、予想されてはいたが…門限破りや、休講日でもないのに無断外出したりと、ろくな事に使われなかったので、学校側が閉鎖した」」「使い魔さんは、随分、お詳しいですね」ハンザが感心したように言う。
「まあな、当時我はいや、我が吸収した老魔導士が教官をしていたのだ」
「大昔に閉鎖したのなら今でも、通れるのかしら…」ポルカが首をかしげる。
「閉鎖と言っても、トンネルは学生から取り上げ学校の管理下に移したのだ。学生達の作ったままではではちょっと危険な箇所もあったからそれを手直ししてな…」
「なんでそんな事を?」
「大学校の自治を守る為だったかな…大学校が魔道士ギルド、特に治安委員会と対立する可能性を考慮して…」
「そう言えば昔は、現在では考えられない過激な研究をしていたそうですね…倫理的にも」
「当時、魔導士に倫理などという話しは、魔導士の堕落と考えられていた」
「当然、一般人は通れないように結界があるのでしょうね。そして罠も…今も使われているのかしら」
「いや、今は忘れられている。記録にも残さず情報は我らの代で封印したからな。教員間で話し合った結果、やはり魔道士ギルドと対立するのはまずいだろうと結論してな…万一の保険としてトンネルは残してな…今の連中は…知っている者は殆どおるまい」
「まあ、ちょっと試してみましょうか。先に使えそうか見てきてくれる」ポルカが使い魔に命じる。
「わかった、少し待て…」使い魔が消える。
 使い魔が姿を消して暫くすると。
「そろそろ帝都の門が見えてきました。まだ少し遠くですが…馬車を止めますか?」
 馬車を御している管理人が問いかける。
「まだ大丈夫みたい、速度を落としてゆっくり行って頂戴…」ポルカが答える。
 そこへ、使い魔が現れる。
「待たせたな、我が調べたところ、地下の抜け道は使えそうである。安心するが良い。最近使った気配も無い」
「ではそこへ案内して頂戴…」
「よし、おい御者よ!我が先に立って飛ぶので、その後をついてくるのだ…」
 偉そうに言うと、管理人の前に出現する使い魔。
「こっちだ!」右に曲がる使い魔、器用に使い魔の後を追う馬車。
 やがて馬車は帝都湖に注ぐ大河の支流と思われる小さな川に近づく。川に掛かる橋のたもとで馬車が止まる。帝都の外壁が遠くに見える。
「ここで良い、ご苦労であった…」使い魔が管理人をねぎらう。馬車からポルカとハンザが降りてくる。
「本当にこんな所でよろしいのですか…」管理人が周りを見まわして言う。
 管理人が不思議がるように、二人が馬車を降りた所は何も無かった。人気の無い寂しいところで、遠くに資材を保管する倉庫らしき倉庫が見えるだけだった。
「心配するな、我らにはここに用があるのだ」使い魔が自信たっぷりに答える。
「では私は帝都に向かわせてもらいます…」そう言うと馬車を走らす管理人。
「お世話になりました!」ハンザが慌てた様に叫ぶ。
「彼奴、人猫族の大使館に注進するのだろう」皮肉な口調で言う使い魔。
「まあ、それくらいなら別に大した事は…」ハンザが明るく言う。
「汝はまったく人が良いな…ついてこい、こっちだ」
 先導する使い魔、ポルカとハンザが後に続く。

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